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ルーマニア最高峰の詩人ミハイ・エミネスクの傑作『宵の明星』を和訳で

2026年 7月 20日

鈴木信吾(本名:信五)教授は、ミハイ・エミネスクの『宵の明星』(原題:Luceafărul”)を日本語に翻訳しています。彼は、日本の大学にルーマニア語教育を広めた人物として知られ、日本で数少ないルーマニア語学習書の著者でもあります。

1950年生まれの鈴木信吾教授は、日本を代表する外国語教育・研究機関である東京外国語大学でロマンス系言語の修士号を取得し、1996年から同大学でルーマニア語を教え始めています。東京外国語大学は、日本でルーマニア語が教えられている唯一の国立大学でもあります。2009年には、ブカレスト大学で文献学の博士号を取得しました。2025年、鈴木教授は、上述の『宵の明星』の出版を機にヤシ市を訪れ、アレクサンドル・イオアン・クザ大学で開催されたルーマニア言語・文化サマースクールにも参加しました。

退職後も、鈴木教授はアレクサンドル・イオアン・クザ大学日本文化センターの名誉センター長に就任しました。同センターは、ルーマニア北東部では初となるこの種の施設として、20251024日にヤシ市に開設されたものです。同じく2025年には、長年にわたる目覚ましい活動と日本におけるルーマニア語の普及への貢献が評価され、ヤシ市名誉市民の称号を授与されました。

鈴木教授がルーマニアという国やルーマニア語と出会ったのは、学生だった1970年のことです。そこの文化や歴史、そしてもちろんルーマニア語に魅了され、初めてルーマニア語に触れることになります。しかし、本格的にルーマニア語を学び始めるまでには、紆余曲折がありました。「1971年、21歳のときにルーマニア語の勉強を始めたのはいいのですが、その後、何度も長い中断がありました。46歳になって初めて、大学で教えるために、継続して勉強し始めることになります。私が引き受けなければ、その講座は廃止されるところだったのです」と鈴木教授は語っています。

教授にとって、ルーマニア語の中でも特に難しかったのは、かなりの数に上るスラヴ語由来の語彙だといいます。また、文法について最も難しいと感じたのは、名詞の格変化、とりわけ格を正しく使い分けることだったと明かしています。さらに、ルーマニア語について最も気に入っている点として、「他のロマンス諸語から孤立していたにもかかわらず、ラテン語由来の基本的な特徴をよく保っていること」を挙げ、「これはまさに奇跡のように思えます」と語っています。

ルーマニア語で気に入っている言葉として、鈴木教授は、劇作家イオン・ルカ・カラジアレによる、人間の認識が持つ二面性を見事に捉えた、深遠かつ現実味に富む警句を挙げました。これを和訳すると、「世界を知りたいか。ならば、世界を近くから見よ。世界が好きになりたいか。ならば、遠くから見よ」となります。

エミネスクの『宵の明星』を日本語に翻訳するのは、どれぐらい難しかったのでしょうか。鈴木教授は次のように語っています。「『宵の明星』は、隠喩と多義性に満ちた詩です。同時に、旧約聖書やギリシャ神話への明示的、あるいは暗示的な言及も数多く含まれていますが、その背景にある考え方は日本ではあまり広く知られていません。一方、魂の輪廻転生という概念が見え隠れする個所もあります。これは、仏教思想があるため、日本の読者にとってそれほど理解しにくいものではありません。例えば、最後の詩連には『Trăind în cercul vostru strâmt(お前たちの狭い輪廻の中で生きているなら)』という一節があります。ここで私は、cerc(ul)、つまり『円』や『輪』を意味して日本語の『サークル』と同じ語源にさかのぼる言葉を、あえて日本語の『輪廻』に置き換えて訳しました。ただし、読者にこの解釈だけを押しつけることのないよう、なぜその訳語を選んだのかを注釈で説明しました」。

ルーマニアを愛するこの日本人研究者が特に好むルーマニアの作家は、ミハイ・エミネスクとイオン・ルカ・カラジアレの二人です。

ルーマニアで特に気に入っている場所としては、いずれもモルドヴァ地方に位置するヤシ、スチャヴァ、ボトシャニの三都市を挙げています。鈴木教授は三都市すべてを訪れており、訪れるたびに忘れがたい感銘を受けたといいます。

ルーマニアは、すでに鈴木教授の魂の一部となっているのです。

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ヤシ市にある エミネスクの愛した菩提樹の前で


「コブザ」 ― ルーマニアの宝物

2026年 1月 18日

 皆さん、こんにちは!

 そして、明けましておめでとうございます。

 新年の始まりに嬉しいお知らせがあります。つい最近、cobza「コブザ」がユネスコの無形文化遺産に登録され、ルーマニアが世界に提供する宝物に新たに加わりました。

 これは、2025年12月中に開催された第20回ユネスコ無形文化遺産保護条約政府間委員会において発表されたもので、共通の文化遺産を共有しているルーマニアとモルドバ共和国にとって重要な出来事でした。

ルーマニアの楽器「コブザ」

 皆さんは「コブザ」とは何か、聞いたことがありますか。

 コブザは、首が短く洋ナシの形をした木製の弦楽器です。伝統上、民謡にリズムと調和を与えるために用いられてきました。

 コブザは、独奏でも合奏でも演奏されます。主に農村地域で使用され、古くから社交行事や舞踏会、祝祭に欠かせない楽器です。その起源については、職業音楽家であるジプシー(lăutari「ラウタリ」とも呼ばれる)を通じて、ルーマニアに伝来されたと言われています。かつてコブザは、ムンテニア、オルテニア、ブコヴィナ、モルドバ地域人気で大変人気があり、16世紀の修道院の壁画にもその姿が見られます。

 ルーマニア領内におけるコブザの最初の記録は不明ですが、その歴史は著名な音楽家たちと深く結びついています。19世紀に活躍したラウタリ組合長のバルブ・ラウタル演奏家もその一人です。

 コブザの世界遺産登録に対して、ルーマニアのデメテル・イストヴァン文化省大臣は、次のように述べました。

 「この新たな成功は、木材から芸術作品を生み出してきた職人コミュニティと、何世紀にもわたって物語や歌を伝えてきた演奏者たちのおかげです。(中略)我々は、ルーマニアおよびモルドバ共和国の現地の専門家や公的機関とともに、この希望と熱意の波を今後も支援していきます。皆さんに心からの祝福と感謝を申し上げます」と述べました。

 このように、コブザの音色の独自性、その構造の優れた技巧、演奏の芸術性、そして文化的象徴としてそれを守り続けてきたコミュニティの役割が、公式に認められました。

 これによってコブザは、イエという民族衣装、移牧、リピツァーナーの飼育の伝統など、すでにユネスコ遺産に登録されている他のルーマニアの遺産に加わることになり、ユネスコ文化遺産における11件目のルーマニアの登録遺産となりました。


Cover Image

クリスマスの歌「キャロル」とキャロリング

2025年 9月 12日

 皆さん、この写真が何を写しているか、ご存知ですか?

 これは、キャロリングという、ルーマニアの昔からあるクリスマス習慣です。

今のところ、クリスマスはまだまだ先ですが、キャロリングにはかなりの準備が必要です。(笑)

 そもそも、キャロリングとは何か、どのような由来があるのか、そして現在はどうなっているのか…色々な質問が思い浮かぶかもしれません。ここで基礎知識を少しまとめていきたいと思います。

 キャロリング(ルーマニア語: colindat)は、簡単に言えばキャロル(ルーマニア語: colind)を歌うことです。しかし、それだけではなく、歌いながら近所の家々を歩き回り、人々に知らせます。何を知らせるかというと、キリスト(正教会では、ハリストス神様という)の誕生(降誕)です。これは、キリスト教の一つの大切な年中行事で、「降誕祭」とも名乗っています。つまりルーマニアの伝統において、キャロルは冬の期間(12月24日から1月6日まで)の祝祭に行われる、祝福や祝賀の役割を持つ古代の儀式的な歌です。

 キャロルの由来は、昔のローマ帝国における、異教のサートゥルナーリア祭に関連があるそうです。サートゥルナーリア祭は、サトゥルヌス、クロノス、ミトラの神々のために乱痴気騒ぎの娯楽が開催されていた冬季の祭でした。やがて、サートゥルナーリア祭が行われなくなりましたが、その習慣の中から伝わっていった習慣もあり、キリスト教の導入と共にそれらが再解釈されました。

 12月24日の晩、近所の子供たちが集まり、家々を歩き回ります。次々と、各家のドアを叩き、「キャロル、もらいます?」(「キャロシングしに来た人を聞いてもらいますか?」という意味)と中の人に伺います。家の中の人がドアを開けたら、歌い始めます。一曲だけを歌う人もいれば、複数を歌う人もいます。わたしは、いつもただ一つの曲で満足ではなく、たくさん歌っていました。(笑)

いよいよ子供たちが歌い終わったら、家の人が感謝の印として様々な物をあげます。元々は、りんごやくるみ、プレッツェルといった物を配っていましたが、最近は甘いものやお金をあげることが定番になっています。

 物をもらうのは嬉しいが、逆に人々に喜びを配るのがどれだけ幸せなことでしょうか!そして、自分が生まれていなかった過去に生きていたかのような懐かしきキャロルの歌詞と旋律を味わいながら神様がこの世に生まれたというメッセージを伝えるのが…この世を超えた体験だと、わたしは思っています。

 有名なキャロルの中から、”Steaua sus răsare” (明ける星), “La Vifleem colo-n jos”, (下方のベツレヘムで)“Trei crai de la răsărit”(東方の三博士)などが挙げられますが、最近ビザンツ風のキャロルも流行っています。これらはより洗練されたもので、伝統的なキャロルの彩りよりも宗教的な側面が強いです。

降誕祭のイコン

 毎年、ルーマニアだけではなく、東欧の国々がキャロルによってハリストス神様の降誕を報告しています。わたしはルーマニア人として、ラテン語系の言葉とバルカン系の精神を混合したキャロルを大切にして世界中の人々に知ってもらいたいと思っています。